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名古屋地方裁判所 昭和25年(行)17号 判決

原告 若林二郎 外七名

被告 名古屋郵政局長・日本電信電話公社総裁

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告訴訟代理人は「被告名古屋郵政局長が昭和二十四年八月十二日原告若林二郎、寺本久義、渥美義一、松原勝美、伊藤幸吉、福田静男、源高司に対してなした免職処分、訴外東海電気通信局長が昭和二十四年八月十二日原告阿部はなに対してなした免職処分は何れもこれを取り消す。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は本案前の申立として「原告渥美義一の訴を却下する。」本案の申立として主文同旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張事実

一、請求の原因

(一)  原告若林二郎、同福田静男は津郵便局、原告寺本久義、同伊藤幸吉は桑名郵便局、原告渥美義一は白子郵便局、原告松原勝美、同源高司は上野郵便局勤務の郵政省職員でいずれも九級職以下の三級官或は雇であつたが昭和二十四年八月十二日被告名古屋郵政局長によつて免職され、その旨各所属局長を通じて通告された。原告阿部はな(当時内山はな)は津電話局勤務の電気通信省職員で前同様の地位に在つた者であるが同日東海電気通信局長によつて免職されその旨所属業務長を通じて通告された。

(二)  而して被告等は右免職処分は行政機関職員定員法(以下定員法と略称)に基くものとの理由を明らかにしたのみであつた。しかしながら原告等に対する右免職処分は次の理由により違法であるから取り消さるべきものである。

(イ) 先ず免職処分の根拠である定員法は憲法第二十五条に違反して無効であるから本件免職処分も違法である。政府のフアツシヨン的弾圧政治は日増しにつのり、一面において巨大な国費をもつて独占資本の利益に奉仕しつゝ他面において中小資本以下あらゆる勤労人民が生活の破綻と失業とにあえいでいる時、何等の失業対策を立てず、何等の社会的保障を考慮せず、職員の大量首切りのために制定されたのが定員法である。これは実に当時の社会情勢下において公務員とその家族に餓死を強制するやり口であり、憲法の保障する生存権と生活権特に憲法第二十五条の健康的な且つ文化的な最低生活の権利をじゆうりんするものである。しかも定員法附則第五項では国家公務員法第八十九条以下の不服申立権を剥奪し、定員法附則第八項第九項では公共企業体労働関係法第十八条、第十九条の団体交渉並びに苦情紛争の権利を剥奪している。憲法前文においては明確に専制と隷従とを排除しており、幸福追求の権利(第十三条)、平等の権利(第十四条)、文化的最低生活権(第二十五条)勤労権(第二十七条)及び団体権(第二十八条)等の保障規定はいうまでもなく政府の専擅を禁圧し、人民の自主的な生活の防衛権を高調したものである。政府の職員といえども、もとよりこの保障から除外されるべき理由はない。従つて国家公務員法その他のその意に反して免降職されない権利の規定及びかかる処分に抵抗する権利の規定はこれらの法律によつてはじめて与えられたものではなく、憲法の精神と諸規定の適用規定にすぎないのである。国家公務員法その他は憲法上の多くの権利を無視した違憲の法律であるが、定員法は国家公務員法と公共企業体労働関係法にわずかに残された憲法上の権利さえ剥奪した憲法違反の法律である。原告等は何ら正当の理由もなく憲法上の最低生活の権利を無視し且つ前示憲法の諸規定並びに精神に反しその意に反して右違憲の定員法により免職された。従つてその免職処分は違法である。

(ロ) 仮りに然らずとするも次の理由により本件免職処分は違法である。即ち先述の如く原告等の免職につき被告等はそれが定員法によるものなることを明らかにしたのみで何故に原告等が整理の対象とされたかを明らかにせず、定員法附則第五項を口実にしているのである。しかしながら整理に当つて郵政兼電気通信大臣の声明した方針によれば「公務員としての資質、次いでは技能知識、肉体的諸条件、特に通信業務に対する協力の程度」を基準とし「とくに協力の程度」を重視すること、「その認定の方法は地方では各郵政局長、各地方監察局長及び電気通信局長の認定に一任され、優劣をつけがたい場合には勤務年数短かく、勤務成績良好でない者を整理の対象とする」ことを明示している。而して先述の如く定員法自体が旧日本的専擅を上部官僚に許容したもので違憲であるが、被告等は右方針の範囲内においてのみ整理対象の認定権を有するにすぎないのに拘らず、右基準に該当しない原告等を免職したものであるから違法である。

(ハ) 原告等は何れも郵政、電気通信両省勤務の職員で結成した全逓信労働組合(以下全逓と略称)三重地区の役員であり、就中原告若林二郎、寺本久義、渥美義一の三名は組合専従者としての休暇をえて組合事務に専従しているものであつたが、原告等はすべて組合員の総意に従つてその利益を守ることに専念し、政府の反人民的反勤労者的政策に対しては法律の許す限りの抵抗を試みてきたし通信事業の復興についても懸命の努力を続けてきたのである。然るに政府と上層官僚は彼等の旧伝統である専擅支配の復活と組合の弱体化のため良心的組合幹部の狙い射ち的首切りを企図してこれを実行したのである。これは言うまでもなく憲法第十四条、国家公務員法第二十七条の平等の原則並びに同法第九十八条第三項の規定に反した違法な免職処分である。

二、被告等の答弁及び主張

(本案前の答弁)

そもそも免職処分に対する取消請求の訴の目的は、当該処分の取消を求めて処分前の原職に復帰することを究極の目的とするのであるが、原告渥美義一は昭和二十六年四月二十三日鈴鹿市会議員に当選したので公職選挙法第九十条の規定により仮りに公務員たることを辞する申出をしていなくとも少くとも当選と同時に公務員たる地位を失つていることは明白である。従つて本訴において処分の取消を求めても原職に復帰することは不可能であることも明白である。されば原告渥美義一の本件訴は権利保護要件を欠くことになるので不適法として却下を免れない。

(本案の答弁)

(一) 請求の原因第一項の事実は認める。

(二) 請求の原因第二項の事実中、被告等が本件免職処分の根拠は定員法にあることを原告等に明示したこと、原告等が何れもその主張の如く組合の役員であり、原告若林、寺本、渥美及び福田が組合専従者(但し原告福田は右組合中央執行委員)であつたこと及び郵政兼電気通信大臣より原告主張の如き整理方針の発表があつたことは認めるが、その余の事実は争う。

(三) 原告等は本件免職処分が違法であつて取消さるべきものと主張し、その原因として先ず定員法が憲法に違反して無効であるからかかる法律に基く免職処分は違法である旨主張するが、そもそも定員法は経済九原則の急速な実施の一環として制定されたものであることは公知の事実であり、この経済九原則を完全に実施するためには我が国の財政経済のあらゆる施策面において斬新な一大革命を要することもこれ又明白な事実である。さればこそ政府においてもこの経済九原則に副うためやむなく国家予算に一大斧鉞を加え、物件費及び人件費の両者にわたつて予算の削減を図つたものである。この二者のうちの一である人件費の削滅の方途として制定されたものが定員法である。この定員法を実施するために相当数の職員の整理を行つたのであるが、政府といえども人件費のみの削減を図つたわけではなく、物件費及び人件費の両者間の調和と経済九原則に副うための国家予算及び財政政策延いては一般国民の経済面に及ぼすべき影響を考慮しつつ真にやむをえない限度においてのみ定員の削減を行つたのである。原告等が右整理によつて蒙つた被害は確かに甚大であることも被告等において充分諒察できるところであるが、経済九原則の実施による被害はただ原告等に止まるものではなく国民間においてもその数は相当数にのぼるのである。然るにかかる施策がやがて敗戦下の我が国の破滅に頻している経済の興隆を来すであろうことに思いを致すときは政府の執つた措置も既に述べたように真にやむをえないものであつたのである。殊に免職するに当つて予算の許す範囲においての退職手当を給付したのであるから原告等が他の国民一般より格段の劣位にある生活を営まねばならない程苦境に陥つたものとも考えられない。又定員法附則第五項において公務員法第八十九条から第九十二条までの規定の適用を排除したのは、極めて短期間(昭和二十四年六月一日から同年九月三十日まで)に多数の人員の整理を実施しなければならないという要請、換言すれば前記経済九原則の急速なる実施のため敢えて本件免職処分に対する不服申立権を認めなかつたもので、これ又日本経済の再建という公共の福祉のためのやむをえない措置であつて、定員法が違憲であるとの主張は失当である。

(四) 次に原告等は本件人員整理に当つては郵政兼電気通信大臣の声明した整理方針に則り整理の対象を認定すべきであるに拘らず被告等がこれに該当しない原告等を免職したのであつてこれは上部官僚の専擅支配の復活と全逓信労働組合の弱体化のため良心的組合員の狙い射ち的首切を企図してなしたものであるから憲法第十四条、国家公務員法第二十七条及び第九十八条第三項に違反する違法な処分である旨主張するが、本件人員整理に当り郵政省及び電気通信省においてはできる限り希望退職者を募りその意に反する退職者を少くすることに努力したのであるが、しかもなお意に反して免職せざるを得なかつた相当数の者については郵政事業電気通信事業の再建上必要とされる公共事業職員としての必須事件を極めて短期間に判定して整理を行つたものであり、しかもそれは後記の如く自由裁量権の範囲に基いてなしたのであるから適法である。即ち右大臣の声明による整理方針なるものは人員整理の一応の規準を内示したものにすぎず、何ら法的拘束力をもつものではないのであるから、仮りに右整理方針たる基準を誤認して処分したものがあつたとしても当、不当の問題ならいざ知らず、違法の問題は生じない。いわんや被告等は右整理方針に則りその枠内においてなしたのであるから正当な免職処分である。右整理方針中最も重視されたのは事業に対する協力の程度ということであつて、それはたとえ能力知識の程度が高くても通信事業の正常な運営を阻害する行為に出たり、自ら行わなくても之と共謀したり唆かしたりして同様の結果を招くと認められるようなものはこの要件を欠くものとしているのであり、内部的には更に次のような「非協力者」の基準が内示されていた。即ち(イ)法令を無視しこれがため行政事務の能率に著しい低下をもたらす様な行為のあつた者、(ロ)他人の職務執行に害を与えるような行為に出た者、(ハ)上司の職務上の命令に対し故意に且つ程度を超えて反抗した者、(ニ)職場の秩序及び規律を故意に乱すような行為のあつた者、(ホ)事業の正常な運行に協力しなかつた者、(ヘ)職務遂行上信頼度の低い者

而して本件行政整理は当時我が国を占領していた連合軍総司令部よりの慫慂に係る経済九原則という対日管理方針の具体化の一環としてその成立をみた定員法に基く基盤を有し、且つ敗戦下日本の経済再建のためのやむをえない措置であつて、決して上部官僚の専擅支配の復活でもなければ又組合の弱体化及び良心的組合員の狙い射ち的首切りを企図したものでもないのである。又行政整理の具体的根拠は定員法附則第三項にその根拠を有する国家公務員法第七十八条第四号及び人事院規則一一―〇(昭和二十四年三月三十一日施行)に規定する所謂「定員の改廃」のための免職処分であり、且つ「当該職員のうちいずれを免職するかは任命権者が定める」という自由裁量権に基いているのであるから憲法第十四条、国家公務員法第二十七条の平等の原則並びに同法第九十八条第三項の所謂不当労働行為に関する条項違反との主張は的外れである。

(原告等が何れも本件整理の方針及び通信事業に対する非協力の内示基準に該当する事実ありとの被告の主張)

(一) 原告若林二郎は非協力という点において前記整理方針及び非協力の内示基準に該当する。即ち

(イ) 昭和二十三年三月七日から九日までの三日間にわたり名古屋郵便局管内四県において一斉に電信特殊有技者検定試験が行われることになつたのであるが、右試験は通信の疏通を可及的に害しないため勤務時間外に行わねばならなかつたところ当時全逓信従業員組合三重地区協議会々長(昭和二十三年七月十五日以降三重地区本部執行委員長と改称)をしていた右原告は協議会をして「勤務時間外における受験反対」の決議を行わしめ、これを県下各支部に指令して上野郵便局を除く三重県下各郵便局従業員をして各局長及び逓信局係官等の受験勧奨にも拘らず遂に受験せしめず官の施策遂行を阻害した。

(ロ) 昭和二十三年七月三十一日マツクアーサー書簡に基く政令第二〇一号の施行によつて逓信労働協約が失効したので名古屋逓信局長は当時の三重地区本部委員長たる原告若林宛に昭和二十三年八月二十五日までに組合事務専従者の復帰を命令したところ、全国的に職場復帰が実現しない情勢にあつたので更に同年十月七日の閣議諒解事項である「組合事務専従者に関する措置」に基き名古屋逓信局長は当時の三重地区本部委員長たる右原告宛に組合事務専従者は同年十月十五日までに職場復帰をすること、但し希望があれば五名以内の専従者(無給)の名簿を右期日までに提出して許可を求めることを通知したが、原告若林は原告寺本久義、同渥美義一等と共に専従者名簿の提出を行わず、且つ職場復帰をもなさず、加うるに昭和二十四年五月九日人事院規則一五―三「職員団体の業務に専ら従事する者の休暇」が制定施行されその施行について、同月十日人事院指令第九号が発せられ、専従職員は同月二十日までに右規則による専従者に切り替えるよう指示があつたので、当時の名古屋逓信局長は同月二十一日までに所属局長に対し人事院規則による休暇願を提出してその許可を受くべき旨通告したが、原告若林は原告寺本、渥美等と共に同月三十一日まで右の手続を採らずこの間度重なる督促にも拘らず、地区本部において専従者同様の行動をなし以て法令及び上官の命令を無視した。

(ハ) 右原告は原告渥美義一等と共に昭和二十四年六月八日から三日間にわたつて開催された全逓第七回臨時大会(以下秋田大会と略称)に代議員として出席し、右大会においてストライキを含むあらゆる闘争手段をも辞さないという非合法闘争の決議を積極的に支持し、これを組合の下部機構に流して組合員を煽動し、以て国家公務員法第九十八条第五項に違反した。

(ニ) 右原告は昭和二十三年五月から同年十月頃迄の全逓三重地区協議会(昭和二十三年七月十五日以降三重地区本部と改称)が訴外松下電機工業株式会社津工場の争議応援をなした際、原告渥美義一、阿部はなと共に右協議会役員としてその青年部長阿部幸三郎が右工場管理者等の通話盗聴を企てる等の非合法的行為をなすまでに応援活動を発展せしめ以て官の信用を著しく毀損した。

(二) 原告寺本久義は勤務成績不良且つ非協力という点において前記整理方針及び非協力の内示基準に該当する。即ち

(イ) 右原告は今次大戦の終戦前においても勤務態度不真面目で長期の事故欠勤もあり、昭和二十年九月十六日右原告復職の際には特に誓約書を徴して今後の誠実なる勤務を担保せんとしたのであるが、その態度は依然改まらず勤務成績極めて不良である。

(ロ) 右原告は特異な偏狭的且つ反抗的性格の持主であつて公務員としての資質を欠く者である。即ち(1)昭和二十一年七月十一日当時の桑名郵便局電話課長水谷正芳の些細な行為に対して反組合的行為であるとして同人を威迫し殊更に陳謝の誓約書を徴した。(2)同年九月十四日全逓桑名郵便局支部主催の討論会において、同局貯金課長水谷政一の発言中「義務を履行して然る後権利を全うすべきである」との意見に対し「我々は充分の生活給を与えられぬ以上職務を怠つてもやむをえない」旨強弁し、却つて同人を圧迫陳謝せしめた。(3)同年十一月三十日全逓桑名郵便局支部職場大会において、人格者として知られていた桑名郵便局長吉田昌徳の不信任動議反対者を過激な主張を以て弾劾非難し該動議支持を強調しその決議実現に努力した。(4)昭和二十二年八月九日全逓桑名郵便局支部臨時総会において、有能管理者と目されていた同局通信課長高林久蔵の不信任動議を強硬に主張して決議せしめその実現に努力した。

(ハ) 右原告は前記(一)の(ロ)記載の如く原告若林二郎、渥美義一等と共に法令及び上官の命令を無視した。

(ニ) 右原告は原告若林二郎、渥美義一等と共に秋田大会の決議事項たるストライキを含む実力行使という非合法闘争を推進するため昭和二十四年六月二十二日全逓三重地区臨時大会において右と同様の決議をなさしめ、又自ら地区内の各局を巡廻したり或は印刷物等によつて下部の組合員を煽動して国家公務員法第九十八条第五項に違反した。

(三) 原告渥美義一は非協力という点において前記整理方針及び非協力の内示基準に該当する。即ち

(イ) 昭和二十四年二月十六日三重県一身田町における中勢特定局長、会内全局長、全逓鈴濃支部三役及び郵政局員等の昭和二十四年度貯蓄将励目標額設定に関する打合せ会において組合も全面的に協力するという結論に達したことがあつたが、右原告は出席を求められないに拘らず敢えて出席して席上故意に反対意見を求べ会議の進行を阻害し、更に同年二月二十二日亀山郵便局で開催された組合の会議において依然として保険募集非協力を力説し、又同年三月一日白子局において夜間幹部の不在に乗じ自己が白子郵便局主事として同局業務運営の推進力たる地位にあつたのに拘らずその職責を忘却し、勤務中の同局電話事務員等に対し保険募集をするなと煽動指示し業務の運営を著しく阻害した。

(ロ) 昭和二十三年三月十五日付全逓三重地区協議会指令に基く三重県下一斉罷業及び同月十六日から二十日までの全逓本部指令に基く慰労休暇戦術実施の結果、白子郵便局においても郵便物が著しく停滞したので同局長は極力これを一掃するよう局員に命令したところ、右原告はこの命令に反抗し停滞郵便物の処理をするなと局員を煽動し業務運営を著しく阻害した。

(ハ) 右原告は前記(一)の(ロ)記載の如く原告若林二郎、寺本久義等と共に法令及び上官の命令を無視した。

(ニ) 右原告は原告若林二郎と共に前記(一)の(ハ)記載の如き行為をなした。

(ホ) 右原告は全逓三重地区本部副委員長又は執行委員として原告若林二郎等と共に前記(一)の(ニ)記載の如き行為をなした。

(四) 原告松原勝美は勤務成績不良且つ非協力という点において前記整理方針及び非協力の内示基準に該当する。即ち

(イ) 昭和十七年五月頃から同二十二年頃迄の間は勤務成績良好であつたが、同年春頃現在の夫松原和夫と内縁関係を結ぶに至つた頃から夫の影響を受けて共産党活動に専念し、同年十一月以降同二十三年一月七日迄担当業務であつた上野郵便局保険窓口事務を著しく怠り、共産党員等との連絡等に時間を消費し無断離席多く一般公衆より再三苦情が出るに至つた。そこで同年一月八日右原告は担当事務を変更され集金受入れ事務担当となつたのであるが、その後においても上司の再三にわたる注意を無視して依然態度を改めず事務渋滞を惹起するので他課員を応援せしめて事務の処理をなさしめる状況であつた。又同年三月二十七日長男出産後正規の授乳時間を守らず、遅刻も多く(夜間の共産党細胞会議等に出席して疲労することもその一因と思われる)、勤務成績は局員中最も不良である。

(ロ) 右原告は在職中原告源高司と共に日本共産党上野細胞の構成員として常時細胞会議に参加し、細胞機関紙「ポスト」又は壁新聞により事実を誇大に宣伝し従業員を煽つてその勤労意慾の低下を策し、ために上野郵便局は特定政党の巣窟であるとの部外者の非難を受けるに至り、国民全体に奉仕すべき公務員としての信用を著しく失墜せしめた。

(ハ) 右原告は原告源高司と共に昭和二十四年八月七日開催された全逓上野支部執行委員会における行政整理対策討議の結論が未だ決定されていなかつたのに拘らず、同月八日支部ニユース第二号を以て右執行委員会において重要事項を決定した旨発表し、暗に重大且つ非合法な方策が伝達される如く装つて行政整理直前の従業員の心理に殊更不安動揺を生ぜしめんとした。かかる専擅的行為に反感を抱いた上野支部組合員中五十三名が組合を脱退した事実がある。

(五) 原告伊藤幸吉は非協力且つ勤務成績不良という点において前記整理方針及び非協力の内示基準に該当する。即ち

(イ) 昭和二十三年二月二十三日当時の名古屋逓信局が逓信局及び普通局の貯蓄部門の幹部並びに組合側普通局支部代表者を宇治山田市に参集せしめて三重県下普通局に対する昭和二十三年度貯蓄奨励目標額設定打合せ会を開催したところ、各局の官側も組合側代表者も殆ど目標額の割当を受諾することにしたが、右原告のみは桑名局の分は白紙に還せと主張し、更に白紙とする旨の一札を書けと強要して会議の進行を妨げ、且つ名古屋逓信局水谷奨励係長を威圧して同人の名刺にその旨記載せしめてこれを受取り、帰局後右の事実を誇張宣伝し目標額に拘泥する必要はないと宣伝煽動し前記決定を無視して桑名局貯蓄奨励業務の運営を著しく阻害しその成績を極めて低調ならしめた。

(ロ) 右原告は桑名市額田より通勤し所要時間二十分以内であつたにも拘らず出勤時刻に遅れることが多かつた。又右原告の担当事務であつた保険募集については昭和二十二年八月頃から同二十三年十月頃までの間は出勤しても組合事務室で情報閲覧打合せをすることが多く、保険募集の途上部外労働組合を訪問して連絡打合せを行うことも多く、募集成績はこの間局員平均の三分の一乃至四分の一であつた。なお、昭和二十一年八月頃から同二十三年十二月頃までの間右原告の不成績に対し上司が注意を与えると常に種々反抗的言辞を弄してこれに従わず業務運営に非協力であつた。

(六) 原告福田静男は非協力という点において前記整理方針及び非協力の内示基準に該当する。即ち

(イ) 右原告は昭和二十三年六月十五日以降全逓中央執行委員の地位にあつたものであるが、他の中央執行委員と共に昭和二十三年七月三十一日付マツクアーサー書簡に基く政令第二〇一号施行による逓信労働協約失効に伴う組合事務専従者に関する官の措置に終始反対し、組合下部機構に対して反対の指令をなし、前記(一)の(ロ)記載の如く組合下部機構における専従者の職場復帰を妨げ、又は専従者名簿の提出を遅滞せしめる等の結果を発生せしめたのみならず、自らも昭和二十三年十月十五日以降同二十四年五月三十一日まで専従者として正規の手続を採らず以て法令又は上官の命令を無視した。

(ロ) 右原告は昭和二十四年六月八日から三日間にわたり開かれた秋田大会においてストライキを含むあらゆる闘争手段をも辞さないという非合法闘争方針を中央執行委員の一員として主張しこれを決議せしめるに至り、且つこれを組合下部機構に指令煽動し、以て国家公務員法第九十八条第五項に違反した。

(七) 原告源高司は勤務成績不良且つ非協力という点において前記整理方針及び非協力の内示基準に該当する。即ち

(イ) 右原告は共産党全逓上野細胞の構成員であつて細胞機関紙「ポスト」の発行責任者であつたため勤務時間中細胞活動をなすこと多く勤務成績は極めて不良であつた。

(ロ) 右原告は昭和二十四年六月十八日当時上野郵便局郵便課小包係の職務を担当していたのであるが、職権を乱用して「郷土産業の防衛と共に民主運動弾圧の萠芽公安条例設定反対協力要望書」と題する書面を上野市会議員二十九名に対して官用通信を装う無料郵便物として発送し以て郵便法規則に違反した。

(ハ) 右原告は在職中原告松原勝美と共に前記(四)の(ロ)記載の如く官の信用を著しく失墜せしめた。

(ニ) 右原告は原告松原勝美等と共に前記(四)の(ハ)記載の如き行為をなし従業員の心理に殊更不安動揺を生ぜしめんとした。

(八) 原告阿部はなは勤務成績不良且つ非協力の点において前記整理方針及び非協力の内示基準に該当する。即ち

(イ) 昭和二十三年十月以降組合事務専従者でないに拘らず、勤務時間中組合事務所への連絡等に従事すること多く勤務成績不良であつた。

(ロ) 同年十一月九日午後一時から四時までの勤務時間中上司からの正式な承認をまたず勝手に中勢地区働く婦人の会委員会に出席して職場離脱をした。

(ハ) 昭和二十四年六月二十八日開催された全逓津電話局支部委員会において前記秋田大会における非合法決議を極力支持主張し、総辞職戦術を提唱し、同年七月三日開催された右支部臨時大会にこれを提案せしめ従業員を煽動し以て国家公務員法第九十八条第五項に違反した。

(ニ) そのほか右原告は全逓三重地区本部婦人部長として原告若林二郎等と共に前記(一)の(ニ)記載の如き行為をなした。

三、被告等の主張事実に対する原告等の陳述

(一)  原告等が郵政通信業務に非協力的であつたとして、その具体的事実として被告等が例示主張するところは何れも故意に事実を歪曲したものである。真実は次のとおりである。

(二)  原告若林二郎に関する事実について。

(イ) 電信特殊有技者検定試験について。全逓は当時最低賃金の要求を廻つて闘争体制を固めつつあつたのであるが、津郵便局支部においては昭和二十三年三月始め頃から超過勤務手当の完全支給を要求して超過勤務拒否を決議して闘争中であつた。このようなところに名古屋逓信局は津郵便局長に対し電信特殊有技者検定試験を勤務時間外に行う旨通達してきた。そこで右支部は委員会を開いて超過勤務手当の支給を受けなければ右試験を受けるのを拒否すること、超過勤務拒否闘争が終了した後においては右試験に応じる用意があること、逓信局があくまで既定方針通りに試験を強行するならばストライキを以てこれに応えること、津郵便局支部のみが右試験の勤務時間外受験を拒否すれば同支部所属の電信課員のみ特殊有技者手当の支給を受けることができなくなるので少くとも三重地区内各郵便局支部に同調を求めるよう三重地区協議会に申入れをなす事を決議し、右申入れをなしたところ三重地区協議会は地区内の各支部長を招集の上右事項につき協議し、その結果各支部とも津支部に同調して受験拒否の申し合せがなされたのである。処で当時地区協議会は単なる協議機関にすぎず、傘下各支部に対して指令権をもつものではなかつた。各支部が単位組合として固有の団体交渉権、争議権をもつていたのであつて、組合規約上地区協議会の指示に拘束されるものではなかつたのである。上野郵便局支部が地区協議会の前記申し合せにも拘らず受験しても規約上の統制違反等の問題が生じなかつたのはそのためである。なおこの問題については後日円満に解決し、間もなく試験は実施されたのである。

(ロ) 組合専従者名簿について。全逓三重地区本部は昭和二十三年十月十五日までに組合専従者を職場に復帰せしむべき旨名古屋逓信局長よりの通告を受けたので同月十三日地区委員会を招集し、専従者の給料は組合が負担することを決定し、同時に専従者を右逓信局長通告に従つて原告若林二郎、同渥美義一、同寺本久義のほか三宅、前川の合計五名として専従者名簿を提出する準備を調えていた。ところが三重地区本部の右決定は同月十八日開かれた東海地方連絡協議会委員会で否決された。従つて名簿を提出することは見出せなければならなくなつたのである。しかしながら専従者が全員職場に復帰することは組合活動を麻痺させることであるから原告等としては選出母体である三重地区内組合員の信頼に応えて専従者として践み止まるのほかなかつたのである。元来専従者の職場復帰の問題は、組合弾圧の一途に出たものであるから全逓中央本部は他官庁労組と共に人事院並びに各省当局に対し連日交渉を重ねると共に下部組織に対しては交渉が終るまで名簿を提出しないよう指示したのである。又専従者名簿を提出するには専従者の給料を組合員が負担すべき措置を構じておく必要があるため全逓組織の各段階において組合大会を開いて決定しなければならなかつた訳で多少の遅滞は当然のことといわなければならない。

(ハ) 秋田大会の決議において、元来一部少数の者のみが不利益を受けるにすぎない馘首に対して全組合員がストライキを以て闘うということは非常に高度な意識を要する至難な戦術であり、一歩誤れば組合の分裂瓦壊を招くものである。原告若林もこのように考えた結果、秋田大会と併行して開かれた戦術会議小委員会において首切り反対のスローガンよりも今直ちに経済的要求を提出して日常の職場闘争を盛り上げるべきだと主張したのであるが、右委員会において首切りがあればストライキを以て闘うと明確に決議すべきであると強調したのは当時全逓内にあつて所謂民主化同盟派といわれていた長谷武磨等であつた。彼等としてはかかる決議を強行することが結局組合分裂を招くものである事を充分知りながら敢えて大会決議に持ち込み(事実全逓はこのために壊滅した)、組合破壊後自派の手によつて全逓を再建せんとする意図があつたのであるが、原告若林等は右長谷等の主張を無下に斥ける理由もなかつたので決議文言を「ストライキを含むあらゆる手段」ということで妥協したのである。而して右戦術は大会に提案され全員一致を以て可決された。かかる経緯と意図を殊更に看過し、右決議にむしろ消極的であつた原告等を免職処分し、積極的であつた長谷等を温存したところに定員法に藉口して良心的組合活動家を排除せんとした当局の意図が窺知されるのである。又三重地区選出の代議員として秋田大会に出席し前記決議を支持した増地卓、森島十松、野口正二郎等は馘首されなかつたが、これは明らかに不平等取扱禁止の原則に違反するものであり、原告等が強調する本件行政整理の政治的性格が立証されるのである。

(ニ) 通話盗聴について。これは阿部幸三郎が原告阿部はなに冗談で通話の盗聴ができるかと話しただけの事である。仮りに被告主張の事実を認めるとしても単に電話局内部の問題にすぎず官の信用を毀損することはありえない。

(三)  原告伊藤幸吉に関する事実について。

(イ) 昭和二十三年度貯蓄奨励目標額設定打合せ会について。昭和二十三年二月二十三日開催された右打合せ会に原告伊藤幸吉は全逓桑名郵便局支部代表として出席したが、その前日桑名局保険課員を集めて割当額についての意見を聴した処、天下り式割当でなく自主的目標額であれば喜んで受諾し、且つ完遂しようとの結論を得たのでその旨を諒して出席した。しかるに、右打合せ会は出席者に若干の資料が配布され簡単な説明がなされただけで直ちに酒宴が催された。そこで右原告は桑名局員の意向を伝えるべく水谷奨励係長と懇談した結果、同人は桑名局員の意見に賛同し、その際同人の名刺裏に被告主張の如き文言を書いて貰つたものであつて決して被告の主張するように水谷係長を威迫して書かしめたものではなくお互に杯を交しつつ談笑裡になされたのである。多数の席上で威迫することなど出来よう筈がない。而して右原告は水谷係長との間に桑名局員の希望するような趣旨の約定がなされたので早速桑名局保険課員にその旨伝え協力を求めた結果目標額を達成しえたのである。

(ロ) 勤務状況について。被告主張事実はすべて否認する。保険募集成績も常に中位を下らなかつたし、不成績の故に上司から注意を受けたこともなかつた。従つて反抗的態度をとつたこともなかつた。

(四)  原告寺本久義に関する事実について。

(イ) 勤務態度について。終戦前右原告の勤務態度不真面目で長期の事故欠勤があつたとの事実は否認する。右原告は昭和二十年九月中旬復員したのであるが、当時父母が共に病床にあつたのでその看護や家業の農耕の手伝いのため復職手続が約半月遅れたのであつて、右の事情については桑名郵便局庶務係へ届出してあつた。しかしながら復員後始めて出勤した日に庶務主事の高林久蔵から復職の遅れたことを難詰され右の事情を説明したにも拘らず、誓約書に署名押印することを強要され、やむなく之を差し入れたものである。その後も勤務成績不良であつたとの主張事実は否認する。

(ロ) 右原告が偏狭的、反抗的性格であつて公務員としての資質を欠くとの点について。(1)の事実中水谷正芳が全逓桑名郵便局支部に対して誓約書を差し入れた事実はあるが、その余の事実は否認する。当時生活物資が甚しく欠乏していたので従業員に対する配給物資の配分は管理者側と組合側との協議によつて決定することになつていたところ、その頃配給された水飴の配分に関し電話課長水谷正芳は右申合せを無視して組合側に計ることなく独断で配分をしたことがあつたので、当時開かれた全逓桑名局支部委員会において問題となり、右支部が水谷課長に対して注意を換起し、事態は円満に解決したものである。(2)の事実中水谷政一が全逓桑名局支部に対し陳謝した事実はあるが、その余の点は否認する。昭和二十一年九月十四日開催された討論会の席上右水谷が「義務を履行して然る後権利を主張すべきである」「黙つて真面目に仕事をしておれば労働運動をしなくとも待遇は自ら良くなる」等労働運動を否定する言辞を弄したため、組合側はその非民主的、前近代的考え方を追求した結果右水谷はその論旨の誤を認めて失言個所を取り消したものである。(3)同年十一月三十月開催された全逓桑名郵便局支部職場大会において同局長吉田昌徳の不信任動議が可決された事実はあるが、その余の事実は否認する。同人は人格者であつたかも知れぬが一局の長としては不適格者であつたので庶務課との間に紛争が絶えず、同課長水谷吉雄、同課主事渡辺利一等から右支部に対して問題が提起されたので支部委員会において検討した結果、同局長は長年の職域であつた教育畑で能力を発揮すべきものであるとの結論に達し右不信任動議が可決されるに至つたのである。(4)の事実については被告主張の如く高林久蔵の不信任動議が提出された事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(ハ) 組合専従者の問題について。原告若林二郎について述べたところと同じ。

(ニ) 秋田大会の決議を下部組合員へ浸透させたことについて。右原告は当時全逓三重地区本部書記長の地位にあつたのであるから全国大会で決議された闘争方針を下部組織へ侵透せしめることは自己の職務を実行したものにすぎない。

第三、立証〈省略〉

本訴係属当時東海電気通信局長が被告であつたが、日本電信電話公社法の施行により同法施行法第四条第二項に基き昭和二十七年八月一日日本電信電話公社総裁においてその訴訟を承継した。

理由

先ず原告渥美義一に対する被告本案前の抗弁について判断する。成立に争のない乙第十九号証の記載並びに原告本人渥美義一の供述によれば、右原告は昭和二十四年八月十二日免職処分を受けた後、昭和二十六年三月二十三日鈴鹿市会議員に当選し、引き続き現在に至るまで同市会議員であることが認められ、公職選挙法第九十条の規定によれば同法第八十九条列挙の公務員に非ざる公務員が公務の選挙に立候補したときはその届出の日に当該公務員を辞したものと見做される。原告渥美が公職選挙法第八十九条列挙の公務員でないことは明らかであるから、同原告に対する本件免職処分が取り消されたときと雖も、公職選挙法第九十条の規定により同原告は前記立候補の届出によつて以後公務員たる身分を喪失するものというべきである。元来、公務員の免職処分取消の訴は判決による免職処分の取消によつて免職処分のなかつた状態に復帰し、もつて剥奪された公務員たる身分の回復を図ることを目的とするものである。然るに、原告渥美は右の如くその免職処分が取り消されても既往に遡り公務員たる身分を当然に喪失するものであるから、かかる者に対しては免職処分を取り消しても最早公務員たる身分を回復するに由ない。従つてかかる場合においては、免職処分の取消を求める訴は訴訟の利益がなくなつたものと言わねばならない。

よつて原告渥美の本訴請求は許すべからざるものとしてこれを棄却すべきものとする。

次にその他の原告の請求の本案について審究する。

原告若林二郎、同福田静男は津郵便局、原告寺本久義、同伊藤幸吉は桑名郵便局、原告松原勝美、源高司は上野郵便局勤務の郵政省職員でいずれも九級職以下の三級官或は雇であつたが、昭和二十四年八月十二日被告名古屋郵政局長によつて免職されその旨所属局長を通じて通告されたこと、原告阿部はな(旧姓内山はな)は津電話局勤務の電気通信省職員で前同様の地位にあつたところ前同日訴外東海電気通信局長によつて免職されその旨所属業務長を通じて通告されたこと、右免職処分は何れも定員法に基いてなされたとの理由を告知されたこと、原告等は何れも当時全逓三重地区の役員であり、原告若林二郎、同寺本久義は組合専従者であつたこと及び右原告等の免職を含む当時の定員法に基く大巾な行政整理に際して時の郵政兼電気通信大臣から整理方針として「公務員の資質、次いでは技能、知識、肉体的諸条件等に通信事務に対する協力の程度」を基準とし、特に「協力の程度」を重視すること「その認定の方法は地方では各郵政局長、各地方監察局長及び電気通信局長の認定に一任され優劣つけがたい場合は勤務年限短かく勤務成績良好でない者を整理の対象とする」との声明が発表されたことは当事者間に争がない。

ところで原告等は右免職処分が違法であるとして種々の理由を主張しその取消を求めるので順次その当否について判断する。

(一)  定員法の違憲性について。

先ず原告等は本件免職処分の根拠法である定員法は憲法第二十五条に違反して無効であるから本件免職処分も違法である旨主張する。右の定員法により免職された者の多くが就職困難な当時において生活上幾多の困苦を味わつたであろうことは容易に想像しうるところであるが、本件行政整理は当時止まるところを知らぬ程上昇の一途をたどりつつあつたインフレーシヨンの進行を阻止し、我が国の経済再建を計る措置として政府のとりつつあつた均衡財政々策の一環としてなされたものであり、右の均衡財政々策は当時我が国を占領していた連合国軍最高司令部の慫慂にかかる所謂経済安定九原則に基くものであつて、昭和二十四年度予算は既にかかる行政整理を予想して均衡予算の編成がなされて成立していたこと、且つ又当時の我が国は右のとおり政治的には連合国軍の占領下にあつてその最高司令官の権力に服しており、経済的には被占領地救済費(ガリオア基金)占領地経済復興援助金(エロア基金)等の対日援助その他の措置を通じてアメリカ合衆国に依存しており、これなくしては当時のインフレーシヨンに基く国民経済生活の安定をはかりえなかつたことは公知の事実であり、これらの事実を併せ考えると、当時の政府が経済再建につき均衡財政々策をとり行政整理の方法を選んだこともやむをえないことであつたといわねばならない。原告等は右行政整理にあたり政府は何らの失業対策も立てず何らの社会保障も考慮しなかつたことを非難するけれども当時既に職業安定法、緊急失業対策法、生活保護法等の社会立法も存したのであり、証人森田成一の供述によつて認められるように被免職者には若干の退職金が支給されているのであるから被免職者の生活が完全に保障されたとは言いえないとしても当時の内外の情勢として政府に行政整理の方法を除外すべきこと又は右以上の対策を期待することは至難のことであるから、かかる情勢の下において行政整理のために制定された定員法をもつて憲法違反の法律とはなしえない。

次に原告等は定員法はその附則第五項において国家公務員法第八十九条以下に定められている不利益処分審査請求権を剥奪したこと及び同附則第八、九項において公共企業体労働関係法第八条及び第十九条の団体交渉権並びに苦情紛争の権利を剥奪したことは憲法の精神を践みにじり、しかも国家公務員法、公共企業体労働関係法上わずか残された憲法上の権利さえ剥奪したものであつて憲法違反の法律であるからかかる法律に基く本件行政処分は違法である旨主張するが、定員法附則第八、第九項の規定は公共企業体職員の人員整理に関するものであり、仮に右附則の部分が憲法に違反したとしてもこれにより直ちに定員法全体が無効となるものではなく右附則部分のみの効力に消長を来すべきものと解すべきであるから政府職員に対する免職処分の効力が問題となつている本件においては右附則第八、第九項の違憲なりや否やは判断の限りでない。そこで同法附則第五項が違憲かどうかの点であるが、右定員法の施行に伴つて実施された行政整理に際し果して国家公務員法第八十九条以下に規定する不利益処分審査請求権を剥奪する必要があつたかどうかは疑問の余地なしとしないが前記の如き事情の下において右行政整理が不可避的であつたのみならず、国家予算上すでに既定の事実として取扱われていた関係上これを急速に実施する必要に迫られていたこと、右不利益処分審査請求権の諸規定は一時に数万にのぼる行政整理を行うが如き場合を予測したものでないためかゝる場合においてまで審査請求権を認めるときは、若し被整理者全員又その殆どの者が審査請求をするような事態に陥れば当時の人事院の機構としては到底これを処理しきれず、整理の進行も又妨げられる虞があつたことと終局的には処分の当否を争つて裁判所に出訴する途の閉ざされていないことを考え合せみれば、これをもつて直ちに定員法が憲法違反の無効な法律であるということはできない。従つて本件免職処分が右の定員法によるものであるが故に違法であるとの原告等の主張は理由がない。

(二)  本件免職処分が整理方針並びに「非協力」の内示基準に該当するかどうかについて。

原告等は前記行政整理に当つて時の郵政兼電気通信大臣の声明によつて示された整理方針に該当しないから本件免職処分は違法である旨主張する。

ところで前記行政整理としての本件免職処分は定員法附則第三項及び国家公務員法第七十八条第四号に基くものであるが、このような過剰人員の整理に当つて何人を免職するかは本来任命権者が自由裁量によつて決定しうるものであるが、これは任命権者の恣意に委ねられているものではなく憲法の諸規定並びに国家公務員法第二十七条に定める平等取扱の原則、同法第七十四条に定める分限の根本基準並びに同法第九十八条第三項の規定に反してはならないと解すべきであるから、右処分が客観的妥当性を欠き条理に反することが明らかであれば違法というべきである。

ところで前記行政整理をなすに際して時の郵政兼電気通信大臣が行政整理に際して原告主張のような内容の整理方針を設定しこれを声明したことは当事者間に争のない事実であり、証人築山金尾の供述により真正に成立したと認める乙第三号証の記載並びに右証人及び証人森田成一の供述を綜合すると、被告等は本件整理をなすに当りその意に反した被免職者を少くするためできる限り希望退職者を募り、それでもなお新定員を超える場合にはやむなく免職せしめるとの方針をとり、更に前記郵政兼電気通信大臣の設定し且つ声明した整理方針である「通信事業に対する非協力者」という点については、これが認定を公正にするために被告主張のとおりの基準が内示されており、被告等は原告等が右整理方針並びに「非協力の内示基準に該当するものとして免職せしめたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで前掲各証拠に照すと右の整理方針並びに「非協力」の内示基準なるものの性質は本件行政整理実施のため内部的な一応の処理基準にすぎないものと解せられるが、前記のとおり本件行政整理に際しての整理方針なるものは時の所轄大臣によつて公にされており、前記認定の「非協力」の内示基準は整理方針を具体的に表現したものである以上、右方針基準はおよそ公務員たるの地位にある者を意に反して免職せしめるについての一般的原則ともいうべきものに合致したものであるから、被告等としては右整理方針並びに「非協力」の内示基準に従つて整理をなすべきであつて、若しこれを無視した免職処分がなされたとすればそれは違法な処分として取消を免れないというべきである。

そこで原告等に対する本件免職処分が被告等の主張するように右整理方針並びに「非協力」の内示基準に従つてなされたものであるかどうか、換言すれば原告等には右方針並びに基準に該当する事実があるかどうかについて考えてみる。

(1)  原告若林二郎について。

成立に争のない乙第五号証の一、二の記載並びに原告本人若林二郎の供述によれば、被告主張(一)の(イ)の事実を認めることができる。右認定に反する証人入山敬一の供述部分は前掲証拠に照して措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

証人築山金尾の供述によつて真正に成立したと認める乙第六号証の一及び成立に争のない同第十三号証の一、二の各記載並びに右証人及び原告本人若林二郎、同寺本久義、同渥美義一の各供述(以上各原告本人の供述中後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、被告主張(一)の(ロ)の事実を認めることができる。右認定に反する右原告等本人の供述部分は措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。

次に被告主張の(一)の(ハ)の事実について、昭和二十四年六月八日から秋田市において開催された全逓第七回臨時大会に原告若林二郎、同渥美義一の両名が代議員として出席したこと、右大会において本件行政整理の実施を予期し若し之が実行された場合には「ストライキをも含む闘争手段」をもつて之に対抗する旨の闘争方針の決議がなされたことは原告等においても明らかに争わないところである。ところで証人村山永喜及び長谷武磨の各証言並びに原告若林二郎、同渥美義一の各供述を綜合すると、右大会と併行して開催された戦術会議小委員会において本件行政整理に対する闘争方針が審議された際、右原告等は積極的にストライキを以て闘争すべきであるとの意見を出したものではなく、むしろ経済的要求を出して日常の職場闘争を盛り上げるべきとの意見を持つていたが、大勢の赴くところに従つて「ストライキをも含むあらゆる闘争手段」をもつて闘うべしとの結論に賛成したものであることが認められる。又成立に争のない乙第七号証の記載並びに原告若林二郎の供述によれば、右原告等は秋田大会の結果を組合機構を通じて各組合に報告した事実が認められるが、右の闘争手段の実行を積極的に組合員に対して煽動したとの被告主張の事実はこれを認むべき証拠がない。しかしながら国家公務員法第九十八条第五項によれば、政府議員はストライキ等の争議行為をなすことができず、又それ故にかかる違法な行為を企ててはならない旨規定されているところ、右認定のとおり原告等は「ストライキをも含むあらゆる闘争手段」をもつて行政整理に対抗するとの決議に結局賛成したのであるから右原告等も同条に規定する「違法な行為を企てた」ことに該当するものとしてその責任を免れるものではないと解すべきである。

被告主張の(一)の(ニ)の事実について、証人築山金尾の供述により真正に成立したものと認むべき乙第十八号証の一、二の各記載並びに証人阿部幸三郎の証言(後記の措信しない部分を除く)及び原告若林二郎、同阿部はなの各供述を綜合すると、昭和二十三年九月二十日当時訴外松下電機工業株式会社津工場において争議があり、これを応援していた全逓三重地区本部の青年部長であつた訴外阿部幸三郎は、右津工場の管理者側の東京、大阪方面への通話を盗聴せんとして津電話局員であつた原告阿部はな、訴外青山和江等に対し右通話盗聴の件を申入れたところ同人等の拒絶を受けた事実が認められる(これに反する証人阿部幸三郎の供述部分は措信し難い)が、右盗聴につき原告若林二郎、同渥美義一、同阿部はな等が右阿部幸三郎の行為を応援したり、かかる企てをなしたとの被告主張の事実についてはこれを認むべき証拠はない。

以上の(イ)(ロ)(ハ)において認定した事実によれば、原告若林二郎は本件行政整理の方針並びに「非協力」の内示基準に該当するものと判定することは不当とはいえない。

(2)  原告寺本久義について。

被告主張の(二)の(イ)について、成立に争のない乙第九号証の一、二の記載並びに証人杉立実の供述によれば、原告寺本は終戦前においては仕事上の過失が多かつたこと、そのため終戦後の昭和二十年九月復職の際には所属郵便局長に対し誠実に事務に服し、諸規律を守り、上司の命に従うべきを誓約し、違背したときは辞職手続を執られても異議ない旨の書面(乙第九号証の一)及び辞職願書(同号証の二)を提出したことは認められるが、右原告が復職後においても勤務成績が極めて不良であつたとの被告主張の事実はこれを認めるに足る証拠がない。原告は右乙第九号証の一、二の書面を記載提出したのは復職の際庶務主事の高林久蔵から強要された旨主張し、原告本人寺本久義の供述には右主張事実に副う部分があるけれども前掲証拠に照し措信し難く、他に右原告主張の事実を認むべき証拠はない。

次に被告主張(二)の(ロ)の事実中昭和二十一年七月十一日桑名郵便局電信課長水谷正芳が全逓桑名郵便局支部に対し陳謝の誓約書を差し入れたこと、同年九月十四日の全逓桑名郵便局支部主催の討論会の席上同局貯金課長水谷政一が全逓桑名局支部に対して陳謝の意を表したこと、同年十一月三十日開催された全逓桑名局支部職場大会において同局長吉田昌徳の不信任動議が可決されたこと及び昭和二十二年八月九日開催された全逓桑名局支部臨時総会において同局通信課長高林久蔵の不信任動議が提出されたことは当事者間に争がないところ、証人杉立実の供述によれば、右水谷正芳が陳謝の誓約書を差し入れたのは水飴の分配に関する同人の説明態度及び従業員の挨拶に対する態度が横柄であつて組合員を無視しているとの理由で原告寺本が迫つて右水谷正芳に陳謝の誓約書を書かしめたこと、又桑名郵便局長吉田昌徳の右不信任動議可決につき右原告はその反対者を激烈に非難して該動議の可決に努力したこと、更に桑名郵便局通信課長高林久蔵の右不信任動議は同局に発生した小包紛失事件を廻つて右高林の調査方法が封建的で人権じゆうりん行為が多いということを理由に提出されたものであるが同局通信課の木下主事の説明にも拘らず右原告は強硬に不信任動議を支持し之が可決に努力した事実が認められる。右認定に反する証人横井良雄並びに原告本人寺本久義の供述部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。又証人杉立実の供述によれば、前記水谷政一の陳述については同日開催された討論会において組合側と管理者側との意見の相違から右水谷と原告寺本とが激しく議論を交えた事実は認められるが、右原告が水谷政一を不当に圧迫して陳謝せしめたとの被告主張事実はこれを認めるに足る証拠がない。却つて右証人の供述によれば水谷政一は自発的に前言を取り消した事実が窺知されるのである。

被告主張(二)の(ハ)の事実については原告若林について判断したところと同様である。

被告主張(二)の(ニ)の事実については、原告寺本が秋田大会において決議された闘争方針を全逓三重地区本部書記長として下部組合員へ浸透せしめたことについては原告の自ら認めるところ、成立に争のない乙第七号証、第八号証の一乃至四の各記載によれば、原告寺本は全逓三重地区本部が発行する「地区ニユース」「全逓三重」の発行責任者であること、右紙上には本件行政整理に対して全逓組合員は実力行使に訴えても之を阻止すべしとの記載があることが認められる。右事実によれば原告寺本は国家公務員法第九十八条第五項において禁止する違法行為を煽つたものというべきである。しかしながら被告主張事実中右が原告若林、渥美等と共に秋田大会の決議を推進するため昭和二十四年六月二十二日全逓三重地区臨時大会において右秋田大会同様の決議をなさしめたとの事実についてはこれを認むべき証拠がない。

以上の肯定された事実によれば、原告寺本は本件行政整理の方針並びに「非協力」の内示基準に該当するものと判定することは不当とはいえない。

(3)  原告松原勝美について。

証人下山忠、比沢行布の供述(後記の証人比沢行布の供述中措信しない部分を除く(及び原告本人松原勝美の供述(後記の措信しない部分を除く)によれば、被告主張(四)の(イ)の事実及び上野郵便局における原告松原勝美、同源高司等の日本共産党全逓上野細胞の活動があまりにも活発であつたため、部外者の一部には上野郵便局は特定政党の巣窟ではないかとの非難の声があつた事実を認めることができる。右認定に反する証人比沢行布及び原告本人松原勝美の各供述部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

被告主張(四)の(ハ)の事実については、証人下山忠の供述によれば、昭和二十四年八月中全逓上野支部組合員約九十名中五十三名が右組合を脱退した事実は認められるがその余の事実についてはこれを認むべき証拠がない。

しかしながら以上認定の事実によれば原告松原は本件行政整理の方針並びに「非協力」の内示基準に該当するものと判定することは不当とはいえない。

(4)  原告伊藤幸吉について。

証人杉立実の供述によれば、昭和二十三年二月二十三日宇治山田市において開催された三重県下普通局に対する昭和二十三年度貯蓄奨励目標額設定打合せ会において、各局側も組合側も殆ど目標額の割当を受諾するに至つたところ、原告伊藤は右席上桑名局の割当額を白紙に還せと主張し、且つ右会議後催された宴席において名古屋逓信局水谷奨励係長をして無理に同人の名刺裏に桑名局の貯蓄目標額は白紙とする旨を記載せしめ、帰局後局員に対し「桑名局は目標額をやりとげることはない。自主的にやればよい」旨公言した事実が認められる。右認定に反する原告本人伊藤幸吉の供述部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

次に証人杉立実の供述により真正に成立したと認める乙第十一号証の一、二及び当裁判所がその成立を認める同第十二号証の一、二の各記載並びに証人杉立実の供述を綜合すると、原告伊藤は昭和二十一年三月保険課勤務となつたのであるところ、その頭初における勤務成績は普通程度であつたが、同二十二年頃以降組合活動を始めてからは所定の出勤時刻に遅れること多く、昭和二十四年三月三十一日から同年四月二十一日の間に限つてみれば前後九回にわたつて遅刻しており、昭和二十二年中頃から同二十三年中頃までの間の募集成績はそれ以前に較べ相当低下した事実及びこれに対する上司からの注意に対して「給料が安いからそう仕事はできない」旨の言辞を呈して反抗した事実が認められる。右認定に反する証人横井良雄近藤幸男並びに原告本人伊藤幸吉の供述部分は前掲証拠に照して措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上認定の事実によれば原告伊藤は本件行政整理の方針並びに「非協力」の内示基準に該当するものと判定することは不当ではない。

(5)  原告福田静男について。

証人村山永喜並びに原告本人福田静男の供述によれば、右原告は昭和二十三年六月頃以降全逓中央執行委員となつたものであるが、同年七月連合国最高司令官マツクアーサー書簡に基く政令第二〇一号の施行により組合事務専従者に対し一般に職場復帰が命ぜられたにも拘らず、全逓中央執行委員会は右政令を違憲として之に従わず、下部組織に対し専従者の職場復帰拒否を指令し、原告福田自身に対しても津郵便局長より復帰命令が出たにも拘らず職場に復帰せず、昭和二十四年五月三十日に至るまで専従者としての正規の届出をなさなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

次に成立に争のない乙第七号証、第八号証の一乃至四の各記載並びに原告本人福田静男の供述を綜合すると、右原告は秋田大会において決議された「ストライキをも含む闘争手段」を以て本件行政整理に対抗する旨の国家公務員法第九十八条第五項に違反する行為の企てを下部機構に流し、そのために下部機構は本件行政整理が実施された際には右の手段を強行せんとする態度を決めた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。然らば右原告の行為は国家公員法第九十八条第五項に規定する違法行為の執行を煽つたというべきである。

以上認定の事実によれば原告福田は本件行政整理の方針並びに「非協力」の内示基準に該当するものと判定されても不当ということはできない。

(6)  原告源高司について。

被告主張の七の(イ)(ロ)の事実について、成立に争のない乙第十五号証、第十六号証の各記載並びに証人下山忠の供述を綜合すれば、原告源は日本共産党全逓上野細胞の構成員であつて、細胞機関紙「ポスト」の発行責任者であつたためか、勤務時間中細胞活動をなすことがあつた事実及び昭和二十四年六月十八日当時上野郵便局郵便小包係の職にあつたところ、その地位を利用してほしいまゝに上野市会議員二十九名に対し上野市公安条令設定反対同盟に関する通信文を官用通信に用いる「通信事務」用紙を以て無料郵便物として発送した事実(右事実は郵便法第二十条に違反し、同法第八十三条に該当すること明らかである)が認められる。右認定に反する証人比沢行布及び上田利幸の供述部分は前掲証拠に照して措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。

次に被告主張(七)の(ハ)(ニ)の事実については原告松原について判断したところと同様である。

右認定の事実によれば原告源は本件行政整理の方針並びに、「非協力」の内示基準に該当するものと判定することは不当とはいえない。

(7)  原告阿部はなについて。

証人藤田光夫、森田成一の各供述によれば、被告主張(八)の(イ)(ロ)(ハ)の各事実を認めることができる。右認定に反する証人八谷伏見雄並びに原告本人阿部はなの各供述部分は前掲証拠に照して措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

次に被告主張の(八)の(ニ)の事実については原告若林について判断したところと同様である。

以上の認定事実によれば原告阿部は本件行政整理の方針並びに「非協力」の内示基準に該当するものと判定されても不当ということはできない。

(三)  本件免職処分は平等の原則、不利益処分禁止の原則に違反するとの原告の主張について。

原告等は、本件免職処分は原告等が何れも全逓の幹部であるが故に狙い射ち的になされたものであるから憲法第十四条、国家公務員法第二十七条、第九十八条第三項に違反し無効であると主張する。原告等が何れもその主張するような全逓の役員であつたことは当事者間に争がないところであり、又原告等が右組合幹部として平素活発に組合活動をなしていたことは証人別所一郎の証言及び原告若林、寺本、渥美、松原、伊藤、福田、阿部の各本人尋問の結果によつて認められるところである。

ところで前記の如く被告等が原告等の行為が本件行政整理の方針並びに「非協力」の内示基準に該当するとして主張した事実のうち、当裁判所において認定した事実中組合活動に関する部分は何れも正当な組合活動の範囲を逸脱したものであるからこれを処分の事由とすることは憲法第十四条、国家公務員法第二十七条、第九十八条第三項に違反するものとはなし難く、その他本件口頭弁論に提出された全証拠によるも本件免職処分が原告等主張の如く原告等の正当な組合活動をなしたことを主要な理由としてなされたものであるとか、又全逓の役員であるがために不公平、不平等な取扱としてなされたものであるとの事実はこれを認めるに足る証拠がない。従つて原告等の右主張は理由がない。

然らば本件各免職処分の取消を求める原告渥美を除く原告等の請求は何れもその理由がないからこれを棄却すべきものとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤淳吉 小渕連 梅田晴亮)

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